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Tea, anyone? |
劇場を出るとき、一様に人々の歩き方や目つきが一致していることがある。
たとえば、007。劇場から出た人々は一様に物陰に隠れて隠密行動を始める。かと思ったら背筋を伸ばして急にきびきび歩き出す。女性がハンカチを落とそうものなら、颯爽と拾って笑顔で渡して去ってゆくに違いない。気分はすっかりジェームズ・ボンド。
たとえば、網走番外地。これを観た人々は一様に目つきは細く、比較的上目遣いになり、風を切って歩き出す。声は太くなり、あくまで渋めに。気分はすっかり高倉健。
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人をその気にさせる映画。そんな映画は一つのテキストとして一人歩きを始める。それは一つのスタイルとして確立され、行動様式として規定されてゆく。
the avengersは、まさにそんな映画の一つである。
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イギリスでは異常気象が続いていた。この異常気象を調査するべく、イギリス政府の極秘諜報機関 ”ミニストリー・シークレット・サービス”は気象学者のエマ・ピール(ユマ・サーマン)に調査を依頼した。ところが気象研究所は爆破され、その時カメラに映っていたのが、なんとエマにうり二つの人物であった。嫌疑を掛けられるエマ。そこでミニストリーは調査協力兼監視役として、ミニストリーのエージェントの一人、ジョン・スティード(レイフ・ファインズ)をコンビとして組ませることにした。彼らがたどり着いたのは元ミニストリーの職員、サー・オーガスト・デ・ウィンター(ショーン・コネリー)という人物であった。次第に明らかになっていく彼の陰謀。エマとジョンは彼の陰謀を阻止できるのか? そしてイギリスの運命は?
この映画は、特別にストーリーが面白いとか、これまでに観たこともないような特殊効果が観られるということもない。どちらかというと話の筋はありふれていて、その展開も極めて素直だ。
この映画の観るべき点は、実は全然違うところにある。それは、イギリスという風土だけが持ち得る独特な様式美であり、かつ美しくも常にシニカルな面を忘れない、イギリス的なダイアログの素晴らしさだ。エマとジョンの言葉のキャッチボールの、その変化球ぶりは当たり前なのだが、他に登場する人物達が織りなす会話を聞いていると、イギリス人は常にこんな会話をしているに違いないという錯覚を起こす。
激しい格闘をした後でも、髪型を整えるのを忘れない。どんな状況下でも、ティー・タイムを欠かさない。労働水準と比較した際のイギリス人の賃金水準は非常に高いと聞くが、この映画を観ていると、なるほど納得である。彼らは仕事の合間に何回クッキーを食べる時間を作るのだろうか? これでは人件費が高いのも当たり前だ。
構図、セット、インテリア、衣装、小道具、車に邸宅、そして役者までもが、入念に計算され尽くされて劇中に登場する。偶然はない。全ては予定調和の中で成立していることなのだ。人はそこに美しさを見いだし、そしてスタイルの極みに心底陶酔するから、それを細部までマネしたくなるのだ。
下に掲載された写真を観ても、何も「こない」人はこの映画を観ても、その良さは分からないかも知れない。この中のどれか一枚でもビビッっと来たら、観る価値はある。きっと、貴方は劇場を出る瞬間にエマかジョンになっているはずだ。
さぁ、エマ。 そろそろ紅茶でも如何かな?
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the avengers |
ちなみに、タイトルを観てピンとくる人は、かなりの通。そう、我らが imaginaryforces。
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