むらたけん online


issue #42 / may 1, 1997



prev タケウチクン
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のタケウチクンは高校生の頃、バイト先であるコンビニで知り合いました。私が高校生の頃の、大学生のタケウチクンなので、本当は「タケウチサン」なんですが、そのフニャフニャぶりから、私はどうしても最後まで、彼のことを「サン」をつけて呼ぶことが出来ませんでした。私は運動部にほとんど所属したことがないので、上下関係にはムチャクチャ疎いせいもありますが...。その破天荒ぶりは、いつもは温厚で廃棄処分のお弁当を店員に恵んでくださるエンゲル係数の守護神、バイト先のオーナーさんを高血圧とギックリ腰で、二度、病院に担ぎ込ませたという逸話をも生み出しました。

それは彼がバイトを始めて1週間目に発生しました。タケウチクンは深夜バイターだったので、この逸話はすべて古見さんという、一緒に働いていた真面目なバイターから聞いた話です。

#ちなみにこの古見さん、「地獄まんじゅう」というインディーズ系パンクバンドを主催するコミケなマンガ家ロッカーで、「まんじゅう食えー食えー」とダミ声で連呼するデモテープを聴かせてもらった日から、私は彼を見る目が変わりました。ちなみに、その容姿からはとても想像できない非常にかわいいマンガを描く人で、辞める一月前に「火星人コンクール」という、火星人をモデルにしたお絵描きコンクールを催し、自分が優勝してしまうくらい絵が上手い人でした。
そろそろレジ業務にも慣れてきたタケウチクン。しかし、彼の仕事ぶりはかなり常軌を逸脱していました。カップラーメンに割り箸を入れないのは当たり前で、商品の入れ間違え、お釣の渡し間違いというのは序の口で、玉子のパックを割ってしまっては、よく他の商品をベタベタにしていました。巨大な袋に2、3品だけを入れて、古見さんに「もっと小さな袋にいれれば」と指摘されると、彼はすぐに実行。小さい袋にぎゅうぎゅうに詰め込み食パンをつぶしてたりしました。

タケウチクンが働いている間、我々はたびたびヤクルトをごちそうになりました。それはタケウチクンが落としてしまい、5本パックがバラバラになったせいで、売ることが出来なくなってしまったヤクルトの残党でした。落っこちて壊れたプリンなんてのも良くあったのですが、これはさすがに頂けませんでした。炭酸系のジュースは、落ちどころが悪いと小さな穴が空いて、ここから内容物が勢いよく飛び出します。私はそのコンビニで6年間以上バイトしていたのですが、その長い経験の中でも、落ちどころが悪かった運の悪い缶ジュースは10本あったかどうかです。しかし、タケウチクンがいる間、その穴の空いた空缶を、我々は1週間に1度は必ずお目にかかることが出来ました。ちなみにタケウチクンは1週間に2日というシフトでした。一度、カップラーメンにお湯を注いだら、容器が割れていて、危うく火傷しそうになった、というクレームがありました。その時のレシートを見ると、そこには紛れも無く彼の責任者番号がはっきりと刻印されていました。

バックオフィスという商品の在庫を置いておく部屋があります−別に Microsoftの製品群ではありません、念のため。ここにあったゴミ箱が、日に日にへこんでいくのに、我々はある日気づきました。それはオーナーさんがぶちきれて、つらく当たっていたゴミ箱のなれの果てでした。辞めさせてしまえばいいものの、深夜のバイターというのはそんなに簡単に見つかるものでもありません。悪いときにコンビニ強盗なんてものが流行ったものです。本部からは「深夜のバイトは必ず3人体制にすること」という方針があったため、オーナーさんの勝手で減らすこともできません。

その日は比較的寒い日で、ホットな缶ジュースがはけてました。あるお客さんが、お弁当と冷たい缶のウーロン茶を持って、タケウチクンのいるレジにやってきました。それはまるでゴキブリホイホイに引っかかる直前のゴキブリを見ているようで、観察のしがいがあったと、後に古見さんは語っています−他人事はすばらしい。
お客さんはウーロン茶の缶を持って、タケウチクンに問いました。「ウーロン茶のあったかいの無いの?」 買い物カゴを受け取り、さっそくお客さんの要望に応えるタケウチクン。彼はその冷たいウーロン茶を、お弁当と一緒にレンジの中に入れてダイヤルを回したのです。バチバチはじける電子レンジ。商用のレンジは 200W、強力です。これには流石のオーナーさんブチ切れ、横のレジからダッシュしたかと思うと、飛び蹴りを一発。これにはお客さんも人生経験豊富な古見さんもびっくり。ところが悲劇は続きます。極度に頭にが上ったオーナーさんが泡を吹いてぶっ倒れてしましました。流石に彼はこれでクビになってしまい、次の日から1日2万の日給で、オーナーさんの大学生の息子が臨時で入ってきたとのこと。(この項まだつづく)


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