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#79 / March, 2004
  sentimental white day  
このアーティクルへの直リンク March 14th, 2004 - 0:00 ↓


(2/14の続き)


浜崎さんからチョコレートをもらった次の日から、僕は彼女とどう接して良いのか途端に分からなくなった。

最初は単なる委員会の中の一人だったのに、ある日から僕は浜崎さんを一人の女の子として見るようになった。そして何故だか分からないけれど、彼女は僕に気がある。


僕の中で、彼女の存在は日増しに大きくなっていった。
そして、それと同時に、僕の中の何かをひどく圧迫するようにもなっていった。


浜崎さんのことが好きだ。だけど、どうしていいのか分からない。彼女のことを好きになればなるほど、僕はどんどんと押しつぶされされそうな感覚に襲われていく。

周りの男子に見られたら恥ずかしい。どう言葉を返していいのか分からない。くすぐったい。気恥ずかしい。そういったものが、どんどんどんどん僕を支配していった。


それはまるで、僕の中の「中学生」が、それを拒んでいるかのようだった。



そして、それは僕の態度に表れた。
僕が彼女を好きだという感情ではなく、
僕の中の潰されそうな感情に従って。



僕は彼女に相当酷いことをした。

彼女が「名字じゃなくて、呼び捨てで名前を呼ぼう」って言ってくれたとき、僕は「クン付けじゃないとダメだ」と、それを頑なに拒もうとした。

彼女が美術室の掃除当番で、一緒に手伝って欲しいと言ったとき、僕はお金をくれたら手伝ってやるよと言った(しかも彼女はそれをくれた...)。

彼女が一緒に帰ろうと言ったとき、僕は他の男友達と約束があるからと、走ってその場を後にした。


家に帰るたびに、どうして僕はあんなことをしたんだろうと、本当に悔やんでいた。でも、浜崎さんの前では自分が出せなかった。自分の気持ちに素直になれなかった。

そして、そう思う気持ちが、ますます僕の中の重圧となっていった。



でも、
僕のそういった態度にも関わらず、
浜崎さんは相変わらず、
僕の近くにいてくれようとした。



そして、ホワイトデー前日。

それまで何度も足を運んでは、グルグルと店内を見て回ったあげく、結局は店から出ていった、あの東急ハンズのホワイトデーのコーナー。

このコーナーがあるのは今日一日、この日しかない。


僕は意を決して彼女へのお返しを手に入れた。買う瞬間は顔から火が出るような思いだった。でも、店を出た後の僕は、晴れ晴れとしていた。ついにやった。浜崎さんへの僕の「気持ち」を形にした。そんな気分だった。



でも、、、結局それを彼女に渡すことはなかった。中休みに渡そう、昼休みに渡そう、5時間目が終わったら渡そう、放課後になったら渡そう...。

そのチャンスは何度もあった。浜崎さんも多分それを期待していたと思う。でも、最後の最後になって、僕の中の重圧がそれを拒んだ。僕は何度も鞄の中に手を伸ばしては、その中に仕舞われている僕の「気持ち」に触れた。何度も何度も。

でも、結局、僕は彼女に自分の「気持ち」を渡すことが出来なかった。その勇気がなかった。


数日後。


僕たち、修学旅行準備委員会は、これまでに調べてきた調査結果を体育館で大々的に発表した。その日を最後に委員会は解散する。

そして、浜崎さんは...もう僕の近くにはいなかった。彼女がそのとき、僕をどういう目で見ていたのか、僕は覚えていない。もう、浜崎さんの目をまともに見ることは、僕には出来なかった。

委員会が解散した夜、僕は何度も握りしめて、もうグシャグシャになっていた、僕の「気持ち」を自分で食べた。それは僕の感情と同じく、もうボロボロになっていた。



それは、すこし、しょっぱかった。



それから卒業するまで、そして卒業した後も、浜崎さんとはまったくと言っていいほど顔を合わせていない。





あれから、もう、15年以上経つ。

あのとき、彼女がどんな傷を負ったのか、僕には分からない。もう、とっくに傷は癒えていて、こんなことも忘れているに違いない。

でも、未だに僕はこのときのことを思い出すたび、胸の中がちくちくと痛む。そしてこの痛みは、毎年、僕のことを苛む。


僕はあれから自分がちっとも変わっていない気がする。今も僕は人を好きになるのがヘタで、そして自分の気持ちをきちんと伝えることが出来ない。

だから、今も僕は一人。


でも。
いや、だからこそ。
今、彼女が幸せになっていることを祈らずにはいられない。


そんなホワイトデー。

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